いけちゃんとぼく


【ネタばれあり。この作品を観る予定がある方は、このレビューを読むことをオススメしません】

 "異界"の者に支えられて少年/少女がある時期を過ごし、何らかの困難を克服してオトナへと成長していく。主人公の成長を見守る存在が交通事故で亡くなった姉の幽霊なら『ふたり』だし、水の精・墨江少名彦ならば『水の旅人 侍KIDS』となる。もちろん『銀河鉄道999』だってこの類型の一つと考えることができよう。本作もまさに、このタイプの物語の一つだ。
 不思議な生き物"いけちゃん"も、ひとひねり加えられているが、やはり少年・ヨシオの成長を見守り、手助けする存在だ。ただ、さすがに西原理恵子の絵本を原作とするだけあって、いろんな所を上手に"ハズして"ある。ヨシオの父が愛人宅の前で泥酔して側溝にハマって死んでしまったり、ヨシオの初恋の相手である隣家の清楚なお姉さんが、いきなりド派手な格好・行動になったり・・・。そんなエピソードも含め、なかなか楽しく見せている。
 そしてこの構造の物語には、主人公が成長したあとに待ち受ける「別れ」がセットになっており、本作の別れもなかなか切ない。別れのシーンそのものももちろんだが、それより前にヨシオがいけちゃんの存在に気付かず、いけちゃんを通り抜けてしまう場面でうるっとしてしまった。この場面で観客は、間近に迫る別れを予期せずにはいられないだろう。
 いけちゃんの声は蒼井優。声だけでもいろいろコミカルな演技ができたり、かなり器用な様子だ。ヨシオの憧れのお姉さん・みさこ役の蓮佛美沙子には、ぜひぜひ"角川映画のヒロイン"として大成して欲しいところ。そして、ロケ地・高知の美しい青空のイメージに、渡辺美里の主題歌「あしたの空」はぴったりだ。

(09/07/05・シルバー劇場(名古屋))