官能小説

【ネタばれあり。この作品を観る予定がある方は、このレビューを読むことをオススメしません】

 藤井みつるの同名コミック(小学館フラワーコミックス)が原作。主演のグラビアアイドル・大久保麻梨子を見ようと映画館に足を運んだので、作品の出来は特に期待していなかった。実際、イマイチの作品。淡々と物語が進むなか、時々盛り上げようとしているのであろう場面もあるが、全編を通じて学芸会のような演技が続く。人物の描写も浅い。劇中劇というか、主人公のサラリーマン兼業官能小説家の椎野(北条隆博)の書いた作品の世界が映像化されて時々はさまれるが、なんだか安っぽい印象。ヒロインのOL・彩(大久保)が感情を殺すきっかけとなった過去の出来事についても、なんとなく描かれているが共感できない。
 ところが終盤、物語がその作品とシンクロしてくる。彩が偶然立ち寄った書店で出来上がった小説を読み、小説の主人公たちのように、自分たちも何年か前に出会っていたのだということに気付き、椎野のもとへと駆け出していく。このとき、走りながら泣き出し、やがて路上で声を上げて泣く大久保の姿を、手持ちのカメラが臨場感あふれる映像で、しっかりととらえる。彩が初めて感情を"解放"するこのシーンを際立たせるために、監督はここまで大久保に、そっけない演技を続けさせていたのではないかと思うほど。そして、彩はそれまでの椎野の想いを知り、2人は抱き合う。ここで終わればよかったのに・・・。
 この作品では、その後の部分がはっきり言って余計だった。2人のベッドシーンに、椎野の作品の一節(と思われる)を2人で声をそろえて朗読する部分が挿入され、すべてが徹底的にぶち壊される。おまけに、ヤケになれなれしくなった椎野としおらしくなった彩が交わす会話が興ざめもの。(ちなみに、この作品のチラシでは某映画評論家がこの台詞について「ゾクゾクしちゃうぜ」などと書いていて、アタマを抱えずにいられない。)
 最後の最後で、大久保の笑顔が良かったからまだしも、ほんとにあの部分は蛇足としか思えない。この作品、原作はどうなのかなあ・・・?あと、フィルムじゃないのも安っぽさを際立たせる結果になったのでは。

(07/04/30・シネマスコーレ(名古屋))