ヘルメットをかぶった君に会いたい

ヘルメットをかぶった君に会いたい

ヘルメットをかぶった君に会いたい

 ある日、テレビCMに映った1969年4月の少女。1969年のヒット曲『風』に合わせ、学生運動の映像が流れる。ヘルメットをかぶった聡明そうな1人の女性がアップになり、はじけるような笑顔を見せる。ヘルメットをかぶったあなたに会いたい、と思った主人公が活動家の元少女を追う。鴻上尚史、初の小説。

 昔、「学生運動」というものがあったという。私の通った高校は私服通学で、てっきり制服などないものだと思っていたが、実は校則に「制服着用の自由」がうたわれており、この自由は、はるか昔の先輩たちがいわゆる「学生運動」のようなものを経て勝ち取ったらしい。安保闘争あさま山荘革マル派・・・様々なキィ・ワードを耳にしたことがあっても、実感としてはわからないのが「学生運動」だ。2001年に公開された映画「光の雨」(本書でも言及される)も、綺麗かつ格好良かった主演・裕木奈江の印象しか残っていない。

 この小説には、私の母校が登場する。主人公が昔付き合った恋人の通っていた大学は、学生運動が盛んな頃に移転が決まり、東京から北関東の原野へと引っ越した。「学生運動のない」「管理された」この大学の描写は、卒業生にとって非常に懐かしい。

 大学の周囲に学生宿舎が林立し、男子棟、女子棟を自由に行き来する生活は、まるで長い合宿生活のようだった。大学関係者が自嘲的に使う「3S」(=study,sports,sex)の用語や、大学内でもはや都市伝説として定着している怪談「星見る少女」のエピソード、自殺者が多かったり、初期の学長たちと新興宗教の関係まで書かれているのには驚かされる。

 しかしながら、大学と研究所しかない奇妙でいびつな研究学園都市で4年ないしもっと長い期間生活したことは、きっとそこで生活した者にしか共有できない思い出になっている。昨年、鉄道が開通してすっかりオシャレな街に生まれ変わってしまい、これからの学生たちと私たちとでは事情が全然違うんだろうけど・・・。

 このままではレビューにならないので、鴻上の作品について言及するとすれば、ほとんどノンフィクションじゃなかろうかと思わせる展開と、平易な文章でぐいぐい物語の世界に引き込まれ、とにかく楽しめる作品だ。「ヘルメットをかぶった君」を通じて学生運動に迫ろうとする主人公の姿にも共感できる。ほんと、どこまでがノンフィクションでどこからがフィクションなんだろうか――。

 そうそう、高校3年の時に志望校を教師たちに言うと「あそこは管理された学校だから」「あんな所に行きたいの?」と批判的なリアクションが多かった。けれど、信頼を寄せていた当時の担任が「あそこの大学が移転する時に、反対デモをして機動隊に水をかけられたことがある」と言いながらも、応援してくださったのを今でも忘れない