嫌われ松子の一生


【ネタばれあり。この作品を観る予定がある方は、このレビューを読むことをオススメしません】

 主人公の川尻松子は20代で教師をクビになり、エリートから転落。家を飛び出し"トルコ嬢"に。ヒモを殺害して刑務所に入り、その後も波乱万丈な運命をたどる――。

 作品が終わってしばらく、席を立ち上がれなかった。何とも濃い作品。ヒロイン・松子のあまりに悲惨な運命を中和するかのように、コミカルな場面やCGを多用したファンタジックな画面作りが徹底されているが、それでも最後まで"救い"がない。

 刑務所を出所し、誰も信じずにひとり引きこもる松子。狭いアパートの部屋でごみに埋もれ、テレビで見る光GENJIだけを楽しみに暮らし、醜く太っていく一方の生活。特殊メイクはもちろん中谷美紀の演技力もあって、松子の姿は本当に醜く描き出される。旧友に声をかけられて、美容師としてもう一度社会復帰できるかも、と思った矢先に河川敷で子どもたちにバットで殴られ、惨殺されてしまう。

 殺された松子は、天へと通じる階段を一段ずつ上っていく場面では、童謡のようなメロディを背景に、元の美しい姿に戻っている。先に死んだ妹に優しく迎えられ、一見何となくファンタジックでホッとするようなラストシーンだが、それまでの場面で妹との心の交流なんてほとんど描かれていないし、とってつけたようなこのシーンでは、松子が救われたとは思えない。

 だからと言って、この作品が駄作だとは思わない。オシャレな音楽のプロモーションビデオを思わせるオープニング画面や、手の込んだセットやCG を使ったそれぞれのシーンにはさまざまな要素が詰め込まれている。圧倒的な情報量の多さに、作品を見終わった後は疲労感(悪い意味ではなく)に襲われるほど、映像的には作り込まれている。ミュージカル的なシーンや印象的なテーマ曲。BONNIE PINKの存在感もすごかった。そして中谷美紀は単なる美人で終わらないヒロインをしっかり演じきっている。

 ストーリーに"救い"を求めるのは、映画の見方のうちのほんの一つに過ぎないと再認識させられる。決して安心して見てられるような、見終わった後にカタルシスがあるような作品ではないが、「ああ、こういうのもありかな」と思える1本。

(06/06/04・センチュリーシネマ(名古屋))