紙屋悦子の青春


【若干のネタばれあり。この作品を観る予定がある方は、このレビューを読むことをオススメしません】

 方言で繰り広げられるユーモアあふれる会話のやり取りを交えながら、物語が進んでいく。
 戦争を描いた映画なのに爆撃や戦闘シーンはないけれど、それでもやはり物語が進むにつれて、戦争が暗い影を落としていく。
 音楽がないけれど、鍋に小豆を入れる音など、さまざまな音が物語を彩っていく。
 印象的な長回しの場面を多用し、淡々と物語が進む中で、主人公・悦子の号泣の場面で激しい感情がスクリーンに広がる。

 現代の場面からは、悦子と永与の人生が穏やかで幸せなものだったと想像させられる。
 しかし、題名になっている「紙屋悦子の青春」が明石に想いを寄せている日々を意味するのだったとしたら、その「青春」は、なんと短くも儚いことか・・・。

【蛇足】
 悦子の号泣は、登場人物が感情を露にするほとんど唯一の場面と言えるだろう。このシーンで「天国にいちばん近い島」(1984・大林宣彦監督)で、主人公・万里がドラム缶風呂に入りながら泣くシーンを連想してしまうのは安易だろうか。

2006/09/02 名古屋・名演小劇場