となり町戦争


 第17回すばる文学賞を受賞した三崎亜記のデビュー小説の映画化。となり町との戦争という「事業」を始めた舞坂町に住む会社員・北原(江口洋介)が、リアリティを欠いたまま戦争に巻き込まれていく。あくまで「事業」として、戦争業務を進めていく町職員・香西(原田知世)と、戦争の意義に疑問を投げかける北原や香西の弟とが対比されながら物語が進む。

 原作の小説がおもしろかっただけに、期待はずれの印象。登場人物が単純化されすぎて薄っぺらいなど、全体を通じて、軽くて安っぽい。場面(日にち)が変わるたびに出てくる「開戦○日目」の表示や、町役場で行われる辞令交付式でのやりとり(原田の動作に効果音を付けたり)などの遊び心あふれる場面も、何だか空回りな印象が否めない。

 物語も原作をつまみ食いしただけで、ラストも取って付けたような展開だ。小説を読んでいなければ「そういうものか」と思うかもしれないが、原作を知っていると、かなり物足りない。小説やマンガなど、あらゆる原作を映画化した作品は「原作を超える」作品か、「原作の魅力を表現する」作品を目指すべきではないだろうか。
 もちろん、魅力を表現する上で、原作のストーリーに忠実であることは必須条件ではない。しかし、原作を適当にはしょったうえに、原作が持っている"輝き"を取りこぼしていては目も当てられない。

 思考停止するかのように感情を押し殺して「事業」の遂行にあたろうとする香西を、原田が上手に演じている。コミカルな演技もシリアスな芝居も、機械的に行動する町役場職員としても、ひとりの感情を持った香西瑞希としても。原田が演じた香西は、確かに原作に登場する彼女の魅力を表現していると言えよう。 
 しかし、作品全体を通じては、安易な演出に終始し、深みの少ない作品になったと言わざるを得ない。「日常を少しずらした舞台で繰り広げられる非現実」という原作の最大の魅力を表現するには、もっと演出上の工夫が欲しかった。

(07/03/07・伏見ミリオン座)