平和ですか?

 記者時代にお世話になった警察官の方から電話があった。仕事の合間の休憩時間に、かけてくれたようだ。
 「平和ですか?」。思わず口から出たセリフだ。警察署を担当している特に新人の頃、一日数回、決まった時刻になると受持ちの警察署に片っ端から電話をかけた。通称「ケイデン」、おそらく「警戒電話」の略だ。
 各警察署の管内で大きな事件や事故が起きた際に、報道機関に対する発表までにはタイムラグがある。発表された時には現場はもう全て終わった後― というコトが起きたり、朝刊や夕刊の締め切りにぎりぎりで間に合わなかったり、そういうことを防ぐためにもケイデンは欠かせない。
 ケイデンの時の決まり文句が、この「平和ですか?」だ。大抵副署長や警務課長、当直の時間帯ならその時のリーダー格(当直指令とか当直長とかいう)が対応し、「平和ですよ。管内で何もありません」と応え、若干の世間話をする。時には「今、報道発表の準備をしてるよ」とか「他社の記者が何人か来てるよ」、「無線で聞いてると隣の署が騒がしい。何かあったかも」なんてこっそり(!?)教えてくれる人もいるが、「何もありません」と言われた10分後に「殺人事件の発生(第1報)」なんてファクスが流れてきたりもする。
 反射的に口から出たとはいえ「平和ですか?」って大げさな言葉だなあ、と、ふと思った。近況報告や世間話の後、電話を切るとき、さらについつい言ってしまった。「(あなたの勤務時間中が)どうぞ、平和でありますように…」