サトラレ


 --サトラレとは、あらゆる思考が思念波となって周囲に伝播してしまう症状を示す架空の病名またはその患者をさす。例外なく国益に関わるほどの天才であるが、本人に告知すれば全ての思考を周囲に知られる苦痛から精神崩壊を招いてしまうため、日本ではサトラレ対策委員会なる組織が保護している(Wikipediaより)

 数年前、『サトラレ』という映画を観た。自分の考えたことすべてが、口にしていないのに周囲の人たちに「声」のように伝わってしまう。ウィキペディアを見たら、原作のマンガがあるようだ。
 仕事がら、タクシーに乗る機会が頻繁にある。タクシーに乗り込み、シートに座りこんで「県庁まで」と言おうとしたまさにその時、運転手が言った。「県庁ですね」
 前にも乗ったことがあり、顔を覚えていたのかなと当てずっぽうで「ああ、前にも乗せてもらいましたね」と言うと、「あれ、そうでしたか?すいませんねえ、覚えてなくて」と困惑した声が帰ってきた。

 だとすれば、だ。自分が無意識のうちに行き先を口にしていたのだろうか。それとも、自分は「サトラレ」なのか?半分寝ぼけた頭の中で、妙にSFチックな妄想が膨らむ。よく周囲の人に指摘されるが、自分は口調は柔らかいけれど言っている内容はけっこうキツイ時がある。口に出さないでハラの中で考えていることも、時には相当キツイはずだ。ひょっとして全部、漏れているんだろうか・・・?

 ふと我に返ると、県庁に近付いたタクシーは、左側の車線に吸い込まれ、目的地とは別の庁舎に寄っていった。「あ、違います。右側、右側!」。あわてて運転手に車線変更を要求しながら、何となくホッとしている自分に気付いた。-よかった、サトラレてない。