22才の別れ Lycoris葉見ず花見ず物語


【ネタばれあり。この作品を観る予定がある方は、このレビューを読むことをオススメしません】

 伊勢正三の名曲「22才の別れ」をモチーフに、川野(筧利夫)と花鈴(鈴木聖奈)、花鈴を自分の命と引き替えに産んだ葉子(中村美玲)の親子2代にわたる恋愛を描いた物語。同じく伊勢の曲をもとに、大分県臼杵市を舞台に撮影された『なごり雪』(2001)以来、大林宣彦監督が5年ぶりの臼杵をはじめ、大分、福岡県でロケを行った。

 「22才の別れ」が流行した頃に、東京で貧しい学生生活を送る中で失ってしまった恋が、かつての恋人の娘と出会い、二十数年の時を経て動き出す。最初は"援助交際"として始まり(しかも、結局は成立しない)、不器用な関係を切り結ぶ中でたどたどしく絆が結ばれ、新たな結末を迎える。取り返しの付かないものを取り返そうとするかのような試みの切なさが胸に迫る。

 ここ数年の大林作品では、「取り返しの付かないもの」というモチーフが繰り返し登場している。『なごり雪』でヒロイン・雪子の想いを知りながら応えなかった祐作、水田の号泣。『告別』で過去の思い人・幸よりも今の家族を選んだ小坂の決断。『転校生-さよならあなた-』で失われていくもの・・・。後悔や迷いと訣別し、取り返すことのできない過去を引き受け、"それでも生きていく"ことを選ぶ主人公達の姿に、大林監督の想いが託されている気がする。

 特に9・11同時多発テロ)以前に制作された『あした』や『告別』よりも、『なごり雪』や『転校生-さよならあなた-』、そして本作『22才の別れ』のほうが、より厳しい決意を持って現在の生を引き受けていく側面が強調されている。大林監督自身も著書やインタビューで9・11の衝撃について語っているが、この大きな出来事が1人の映画作家とその作品群に与えた影響は
計り知れない。

 ヒロイン・花鈴を演じた鈴木聖奈のナイーヴな演技に好感を持った。筧利夫も、大林作品の新たな主人公像を提示することに成功している。"前作" にあたる『なごり雪』と趣を異にして、主題となる曲「22才の別れ」を前面に打ち出す作品づくりも、来るべき「大分3部作」ないし「伊勢(正三)3部作」の可能性を拡げてくれたと期待できる。そしてLycorisの赤や竹宵の灯りなど、とにかく美しい作品だった。

 おまけに帰り道、どうしても泣くほど旨い焼き鳥が食べたくなった。

(06/12/16・「星の降る里芦別映画学校」=芦別市民会館)
(07/08/20・シルバー劇場(名古屋))