【レビュー】映画『22歳の別れ』


22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』
 年度: 2006
 国: 日本
 公開日: 2007年GW(予定)

 伊勢正三の名曲「22歳の別れ」をモチーフに、川野(筧利夫)と葉子(中村美玲)、葉子の命と引き替えに生まれた娘・花鈴(鈴木聖奈)の親子にわたる恋愛を描いた物語。同じ伊勢の曲をもとに、大分県臼杵市を舞台に撮影された『なごり雪』(2001)以来、5年ぶりに大林宣彦監督が臼杵でロケを行った。
 映画が制作された過程から、”前作”『なごり雪』と比較せずにはいられない。曲を抑制的に使いながら物語の”急所”で歌詞そのものを台詞として使った前作とは対照的で、本作では伊勢の「22歳の別れ」が前面に押し出されている。旋律が物語全編を彩り、あたかもストーリーを運ぶかのような印象さえある。台詞の語り口も(決してそうは思わないが)「棒読み」と揶揄される「美しい」日本語にこだわった前作と趣を変えて、ヒロイン花鈴を代表にぼそぼそと聞こえてしまうがよりリアルな台詞回しだった。
これはそのまま、純粋で素直でまぶしいばかりに真っ直ぐな前作のヒロイン雪子(須藤温子)と異なり、どこか内気でナイーヴな花鈴という新しいヒロイン像の提示を意味していると言えよう。そういえば、花鈴の母、葉子は姿勢が良くて意志が強く、何となく雪子を思わせる部分がある。


【以下、若干のネタバレあり】
 川野が「非閉塞性無精子症」であることもあって、物語中でヒロインを抱きしめるなどの身体的接触は描かれない。どこか寡黙であくまで純粋、プラトニックに花鈴を想う川野役は、筧利夫の新たな一面を見せてくれた。物語の最後、エンドロールの途中あたりで、「川野が夢に思い描いた場面」として川野が花鈴を抱きしめるほんの短いシーンが挿入されており、とても微笑ましい。抱きしめられた花鈴が一瞬、驚いたような表情を見せるが、素の鈴木聖奈を垣間見たような気がして、本当にドキッとした。坂道を上る実加(石田ひかり)が、後ろ姿で千津子(中嶋朋子)になってしまう『ふたり』(1991)のラストシーンのように、(物語の中の)虚実を交叉させてカッコでくくるようなファンタジックな演出は、大林監督の重要な得意技の一つではないだろうか。

(06/12/16・「星の降る里芦別映画学校」=芦別市民会館)