幸福(しあわせ)のスイッチ


 小さな電器店を営む頑固親父・誠一郎(沢田研二)が骨折して入院。東京のデザイン会社を退社して失業中の次女・怜(上野樹里)が不本意ながら店を手伝ううちに、父の仕事を理解して、2人の心の距離が縮まっていく。

 心温まる素直な作品。そんなに劇的な場面はなく、何気ない電器店の日常を描きながら、ほろっとしたり、うるっとくるような素敵なエピソードで物語が紡がれていく。ひとつひとつの場面がわかりやすく、ストーリーの展開もほぼ予想通りで安心して観ていられる。派手な設定やどんでん返しばかりが映画のおもしろさじゃないんだ、と映画の魅力を再確認させてくれる。特におばあさんとの心のやりとり、ついついじんときてしまう。
 なお、全編を通じて唯一、家族にとってとても大きな1つの問題だけは、最終的な結論が明かされずうやむやにされており、観客に解釈を委ねられている。そういう部分もあるからこそ、ただの「わかりやすい映画」では終わっていない。
 拗ねたような不機嫌なヒロインが、しだいに周囲の人々とうち解けていくまでの様子を、上野樹里が好演。沢田研二の頑固親父も存在感があって面白い。
 
 安田監督の劇場長編デビュー作に当たる。2002年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上演された、関西弁でしゃべるチャーミングな魔法使いの物語「ひとしずくの魔法」も、とても温かい作品だった。映画祭期間中に安田監督とお話をする機会にも恵まれたのに、緊張してどんな会話をしたのかすっかり覚えていないのが残念だ。

(06/11/11・シルバー劇場(名古屋))